ゼインアーツ「ヤール1」は本当に風に弱いのか?
北アルプスで使ってわかった結論:「風に弱い」わけではないが条件は選ぶ
北アルプスの稜線に近いテント場で一晩過ごしてみての結論は、「ヤール1は“風に弱いテント”ではないが、設営の向きと条件をかなり選ぶテント」です。
以下のような条件であれば、とくに不安は感じませんでした。
- しっかりペグが効く土や砂利まじりのサイト
- 風向きを読んで、狭い側を風上に向けられる状況
- 風速10m前後までの、典型的な夏〜秋の北アルプス稜線テント泊
非自立式だからといって特別心細い感じはなく、クロスフレームとシリコーン加工ナイロンのおかげでテント全体の「しなり方」が素直で、ビビり音も少なく、想像以上に落ち着いて眠れました。
ここで効いているのが、一般的な30Dクラスを上回るとされる引裂強度の15D/20Dシリコーンナイロンと、クロスフレームの組み合わせです。軽量生地でありながら“ビクビク”せず、ある程度たわんで戻る挙動なので、「壊れそう」というストレスがかなり抑えられていました。
一方で、次のような条件では「非自立式+軽量生地」を選んだ代償がはっきり出そうだとも感じました。
- ペグがほとんど刺さらないようなガチガチの地面
- 強風で風向きがころころ変わる状況
- 風速15m以上が長時間続くような悪条件
テント自体の素性は良いのですが、ペグとガイラインの追加や張り方の工夫をしないと、“設営の難しいテント場では苦労する”のも事実です。
このあたりは、Samaya Radical1のような軽量テントに「雨風の悪条件で結露やバタつきに悩まされた」という声があるのと同じ文脈で、UL寄りテント全般に共通する宿命と言えます。ヤール1はその中ではかなりバランス型ですが、「万能ではない」という前提を持っておいた方が安心です。
この記事でわかること(ヤール1購入前に押さえたい3ポイント)
この記事では、とくに次の3点を中心にお伝えします。
- 非自立式だけど、どの程度の風なら安心して使えるのか
- 北アルプスレベルのテント泊で、居住性や結露は実用的なのか
- 約860gという軽さのメリットと、山で割り切らなければいけないポイントはどこか
ヤール1を「初めての登山テント」にするか、「2張り目のULテント」にするか迷っている方の判断材料になるよう、実際に使って感じたことをお伝えしていきます。
ヤール1の概要とスペック
「約860g」という軽さが意味するもの(他社ソロテントとの比較)
ヤール1の最大の特徴は、フライ+インナー+フレームで約860gという軽さです。ロープ・ペグ・フットプリント・収納袋まで含めても約1.15kgに収まります。
他社の定番ソロテントと比較すると、目安としては次のとおりです。
- アライテント エアライズ1:フルセットで約1.3〜1.5kg
- MSR フリーライト1/ハバ系1人用:1.1〜1.4kg台
- 一般的な日本ブランドの山岳ソロテント:1.5〜1.8kg前後がまだ多数派
この中で、1kgを大きく切ってくるヤール1は、ウルトラライト寄りのコンセプトです。それでいて、既存のULシェルターのような「ポール別売り・フロアなし・タープ+バグネット」といったストイックさではなく、フロア付きのダブルウォール山岳テントとして一通りの機能を備えています。
「ちゃんとテントなのに800g台」というバランスは、北アルプス縦走のような長い行程で大きく効いてきます。BE-PALの軽量テント特集でも「アンダー1kgクラスの大本命」と評され、雑誌やブログでも“軽さと安心感の妥協点”として名前が挙がることが増えてきました。
同クラスの競合としては、ZEROGRAM エルチャルテン1P(約900g・2ドア)、RIPEN SLソロ、Six Moon Designs ルナーソロなどがありますが、それらと比べても「日本ブランド・日本人体型前提・価格がこなれている」という点で、ヤール1はかなり現実的な選択肢になっています。
非自立式+クロスフレーム構造の特徴
ヤール1は非自立式です。ポールを通しただけでは自立せず、最低限のペグダウンが必須になります。
構造は次のようなオーソドックスな軽量山岳テントのスタイルです。
- X字に交差したクロスフレームのドーム型
- フライを先に立ち上げ、インナーは後からフックで吊り下げる方式
- ガイライン(張り綱)を追加することで風への耐性を上げられる
自立式に比べると設営場所の自由度は落ちますが、その代わりに、
- 同じ強度ならポールを細く・短くできる
- 自立用のパーツを省けるため軽量化しやすい
といったメリットがあります。
実際に張ってみると、「クロスフレーム+非自立」という組み合わせは、ペグがしっかり効いている限り、風を受けたときの“全体のしなり方”がきれいで、局所的な負担が出にくい印象でした。ゼインアーツがオートキャンプ向け大型テントで培ってきた「フレームワークと生地テンション」のノウハウが、山岳テントサイズにうまく落とし込まれていると感じます。
また、フライ先行で立ち上げられる構造なので、雨の中でもインナーを濡らしにくいのは、山岳テントとして実用上大きなメリットです。
素材・サイズ・シーズン想定(どこまでの山行に向くか)
公表スペックおよび周辺情報からわかる主な仕様は次のとおりです。
- フライ:15Dナイロン(シリコーンコーティング)
- ボトム:20Dナイロン(シリコーンコーティング)
- 引裂強度は一般的な30Dクラスを超えると言われる
- インナー:メッシュ中心の3シーズン向け
- 想定シーズン:春〜秋の3シーズン用
- サイズ感:日本人の体格に合わせた「ミニマムソロ」
フロア寸法は細かい数値の公表が少ないのですが、実際に使った感覚としては、
- 身長180cmくらいまでなら普通に快適
- 185cmを超えると、マットや荷物の置き方に少し工夫が必要
といったサイズ感です。海外ULテントにありがちな「横幅はあるが天井が低すぎて起き上がりにくい」というストレスは少なく、日本人の平均的な体格だと“ギリギリではなく、ちゃんと動けるミニマム”という印象でした。
シリコーンコーティングの薄手ナイロンは、軽量で強度も高い一方、厚手生地と比べると「ゴリゴリ擦りながら長年使う」ような使い方には向きません。北アルプス級の夏〜秋の縦走・テント泊中心ならベストマッチですが、厳冬期や雪上での使用は想定外と考えた方が良いです。
インナーがほぼフルメッシュという構成上、初夏〜初秋の蒸し暑い夜でも熱がこもりにくい反面、晩秋や標高の高い稜線では、シュラフやウェアでしっかり防寒を組む前提になります。
北アルプスでの検証条件
設営したテント場の環境(場所・標高・地形)
ヤール1を試したのは、北アルプスの標高2,500m前後の稜線寄りテント場です。典型的な「稜線近く・風が抜けやすい・石が多い」というサイトをイメージしてください。
- サイトの傾斜:やや傾斜あり、完全なフラットではない
- 地質:細かい砂利+土+ゴロ石
- ペグ:アルミVペグと付属ペグを併用
ガチガチに硬いわけではないものの、ペグが浅いと抜けやすい、“よくある北アルプスのテント場”という条件でした。非自立式のヤール1をこうした典型的な日本のテント場コンディションでどう感じるかは、購入判断のうえで非常に重要なポイントだと思います。
その日の天候・風速・気温・地面コンディション
当日のコンディションは次のとおりです。
- 天候:夕方までは晴れ〜薄曇り、夜半から風が強まり一時的にガス
- 体感風速:
- 日没前:5〜7m/s前後
- 深夜〜明け方:瞬間的に10〜12m/s程度(体感)
- 気温:日中15〜18℃、夜間は5℃前後まで低下
- 地面:前日に少し雨が降った後で、表面はほどよく湿りペグは刺さりやすいが、深い層はやや硬め
「設営には悪くないが、夜の風はそこそこ吹く」という、テントの実力を見るにはちょうど良いコンディションでした。いわゆる台風級や冬の爆風ではない、3シーズンのリアルな北アルプス想定です。
パッキングと装備量(現実的な縦走装備でテスト)
北アルプス2泊3日縦走を想定した、現実的な装備でパッキングしました。
- ザック:40〜45Lクラス
- テント:ヤール1(本体+純正フットプリント)
- マット:インフレータブルマット+薄めクローズドセル1/2枚
- シュラフ:3シーズン用化繊シュラフ
- 防寒具:フリース+薄手ダウンジャケット
- 料理装備:ガスストーブ+クッカー1個
- 水:行動中1.5L+テント場での追加分
- 食料:3日分(フリーズドライ+行動食)
いわゆるULガチ勢ではなく、一般的な登山者の装備ボリュームを前提にしたうえで、テントの居住性や軽さのメリットをチェックしています。BE-PALなどで紹介される「テント泊初心者〜中級者が現実的に揃える装備」とほぼ同じイメージです。
ヤール1の設営レビュー
設営手順と所要時間(初見で迷わないか)
初設営は、写真付きの説明書を一度ざっと見ただけでスタートしましたが、10〜15分程度で問題なく完了しました。手順は次のとおりです。
- フットプリントを広げ、四隅を仮固定
- ポールを組み立て、フライのスリーブに通す
- ポールを立ち上げつつ、フライ四隅をペグダウン
- 必要な箇所にガイラインを張る
- フライ内側にインナーをフックで吊り下げる
クロスフレームのテントを一度でも張ったことがあれば、ほぼ迷うことはないと思います。
非自立式特有の「立ち上がるまで形が決まりにくい感じ」はありますが、フライが軽く扱いやすいので風にあおられにくく、そこまでストレスはありません。ポールスリーブやフックの配置も直感的で、日本ブランドらしい親切さを感じました。
ペグダウンの効きとロープワークのしやすさ
付属ペグは軽量タイプで、砂利まじりの地面にはやや刺さりにくい場面もありました。実際に使ってみておすすめしたいのは次のような運用です。
- メインの四隅+前後の要所には、信頼できるVペグやYペグを使用
- 付属ペグはサブのガイライン用に回す
ガイラインの長さや配置は標準的で、自在金具や基本的なロープワークに慣れている方なら問題なく扱えるはずです。前室側・足元側ともに、1〜2本ずつ補助のガイラインを追加すると、風に対する安心感がぐっと増しました。
ULテントにありがちな「ガイポイントが少なく補強の余地がない」ということはなく、ヤール1は“張り方で遊べる余白”があるため、ロープワークが好きな方ほど自分好みに仕上げやすい印象です。
風向きを踏まえた向き・張り方のコツ
実際に設営してみてかなり重要だと感じたのが、狭く背の低い側を風上に向けることです。ヤール1は非対称な形状で、
- 出入口側:高さがあり、前室を含めると面積が大きめ
- 足元側:高さが抑えられ、風を逃がしやすい
そのため、次の2点を意識するだけで揺れ方がかなりマイルドになりました。
- 強い風が吹く可能性があるときは、足元側を稜線や風上に向ける
- 風が巻きやすいと感じたら、両サイドのガイラインを多めに取る
逆に、出入口側を風上に向けてしまうと前室がバタつきやすくなります。構造はシンプルですが、向きと張り方でカバーしやすいテントという印象です。
悪条件(狭い・硬い・石が多い)なテント場で感じた弱点
今回のテント場は「そこそこ石が多い」程度でしたが、それでも次のような点が気になりました。
- ペグを打ちたい位置に石が埋まっていて、角度を変えないと入らない
- スペースが限られていると、フットプリントとフライの位置関係の調整がややシビア
非自立式ゆえに「この位置にペグが打てないと形にならない」という縛りが出ます。狭いサイトで他テントと密集している場合や、ガチガチの地面では、「とりあえず自立させてから場所を微調整する」という自立式ならではの芸当ができない点がデメリットに感じました。
アライテントのような自立式から乗り換えた方ほど、このギャップは大きく感じると思います。ヤール1を2張り目の軽量テントとして選ぶなら、「設営自由度は落ちるが、そのぶん歩きやすさは大きく上がる」と割り切っておくとスムーズです。
風への強さを徹底チェック
夜間の風とテント内の揺れ方
体感10〜12m/s程度の風が時折吹いた夜、テント内で感じた揺れは次のようなレベルでした。
- 常時の風(5〜7m/s):
フライが「サラサラ」と鳴る程度で、揺れは小さい - 強めのガスト(10〜12m/s):
テント全体が「グン」と一度たわんで戻る感覚が数回
ペグダウンがしっかり決まっていた前提ですが、この程度の風であれば、とくに恐怖感や不安感はありませんでした。
クロスフレームの安定感と「たわみ」の出方
クロスフレーム構造のおかげで、テント全体がしなるように力を逃がしてくれます。そのため、
- ポール1本に負担が集中して折れそう
- 特定の面だけバタついてうるさい
といった挙動はほとんどなく、むしろ「しなやかに受け止めている」印象でした。薄手ナイロン特有のバタつき音はありますが、耳障りなレベルではありません。
モノフィラメント系生地を使う軽量テントでは「パリパリ」と硬い音が気になることがありますが、ヤール1のシリコーンナイロンはかなりマイルドで、夜間の精神的な疲労感も少なくて済みました。
風に強い向き・弱い向き
実際に使ってみると、次のような傾向がありました。
- 強い向き:足元側・サイドからの風
- 弱い向き:出入口正面からの風、斜め前方からの風
出入口側はフライ面積が大きく、前室の張り出しもあるため、風を大きく受けてしまいます。足元側を風上に向け、サイドをガイラインで補強してやると、「風を受けているけれど致命的ではない」状態をキープしやすいです。
ペグ・ガイライン追加でどこまで安心できるか
付属ペグ・ガイラインに加えて次のような工夫をすると、安心感が大きく変わります。
- メイン荷重がかかる箇所に強度の高いVペグ/Yペグを使用
- 予備ガイラインを2〜4本追加し、サイドと前後をバランスよく補強
サイドのガイラインを左右対称に張り、前室・足元も1本ずつ補強してやると、風速10m前後なら「問題なく眠れる」レベルに収まりました。標準構成でも使えますが、ペグやロープを一段階グレードアップすると山岳適性はさらに上がると感じます。
風に関する不安点と「想像以上」だった点
風に関して不安に感じたのは次の点です。
- ペグが十分に効かない地面では、一気に不安定になりそう
- 風向きが変わり、前室側から強風を受け続けた場合の耐性は未知数
一方で、想像以上に良かったのは次の点でした。
- クロスフレーム+シリコーンナイロンによる自然なしなり方
- 軽量テントにありがちな「パリパリ・バタバタ」した不快な音が少ない
非自立式=風に弱いという先入観は、少なくとも風速10m前後では完全に覆されました。3シーズン用山岳テントとして見れば、「軽量のわりに風に強い部類」と言ってよい印象です。
居住性と快適性:軽さとのトレードオフ
室内スペース(マット+荷物を置いたリアルな感覚)
インナーに次のような荷物を置いてみたうえでの印象です。
- 幅50〜55cm程度の一般的なマット
- 枕・シュラフ
- 足元に衣類や小物を入れたスタッフサック
この状態で、「ソロ山行としては必要十分だが、余裕たっぷりではない」という感覚でした。
ザック本体は次のような置き方で対応可能です。
- 頭側奥か足元の空きスペースに横向きに置く
- もしくは前室に立てかけておく
室内で雑多に荷物を広げてくつろぐというよりは、「しっかり眠るためのスペース」と割り切る方がストレスが少ないサイズ感です。
海外ULシェルターと比べると、室内の立体感がきちんとあり、起き上がったときに天井が近すぎて窮屈に感じることは少ないです。日本人向けに寸法を詰めたゼインアーツらしさがよく出ている部分だと思います。
出入口と前室の使い勝手(雨天時も含めて)
出入口は1か所ですが開口部は十分に大きく、晴れた日の出入りはとてもスムーズです。
雨天を想定して試したところ、
- ファスナーを半開き程度にした状態でも出入りしやすい
- 前室奥側にザックを置けば、かなり濡れを防げる
- 完全な土砂降りでは、出入り時の多少の濡れは避けにくい
といった具合でした。この軽さのテントとしてはよく頑張っている前室で、「雨の日も快適に作業できる」というより、「必要な出入りと簡単な作業がこなせる」レベルと捉えるとちょうどよいと思います。
ベンチレーションと結露(夜〜早朝のテント内環境)
天井上部とドア下部にベンチレーションがあり、通気は比較的良好です。今回(外気5℃前後・無積雪)の条件では、
- インナーメッシュにうっすら結露
- フライ内側に小さな水滴が点々と付く程度
という、ごく一般的な3シーズンテントの結露状況でした。
全閉に近い状態で寝ても、朝方に「結露でびっしょり」というほどではなく、壁をタオルで軽く拭けば十分対応できるレベルです。結露性能はULテントの中ではかなり優秀な方だと感じます。
着替え・作業のしやすさ
天井高と形状のおかげで、次のような動作はあまり窮屈さを感じません。
- 上半身の着替え
- シュラフへの出入り
- 軽いストレッチ
インナーが全面メッシュに近い構成なので、閉塞感も少なめです。
一方で、座って前室で調理する場合は奥行きがややタイトで、「風や雨の日は無理せずテント外や別の場所で調理しよう」という割り切りが必要だと感じました。テント内で“生活する”より、「寝る・着替える・荷物整理」がメインという使い方が合っています。
雨・露・地面の濡れへの耐性
小雨〜本降り手前レベルでの防水性
今回は本降りレベルの長時間雨はありませんでしたが、短時間の小雨と夜露という条件では、
- フライの撥水性は高く、水玉がコロコロ流れ落ちる
- ボトムからの浸水はまったくなし
という結果でした。シリコーンコーティングのおかげもあり、防水性について不安はありません。類似スペックのテントから推測しても、ボトムの耐水圧はかなり高い部類と考えてよさそうです。
北アルプスの通常の雨であれば、ボトム抜けを心配する必要はほとんどない印象です。
フットプリントの有無で変わる安心感
今回は純正フットプリントを使用しました。その結果、
- 石のゴツゴツ感が和らぐ
- 濡れた地面とボトムの間に一枚挟まれている安心感
- 撤収時にボトムが泥だらけになりにくい
といったメリットがはっきり体感できました。
軽量化だけを考えればフットプリントを省略したくなりますが、ヤール1のボトムも20Dナイロンと薄手なので、北アルプス級のテント場ではフットプリント使用を強くおすすめしたいです。岩の多い日本のテント場事情を考えると、ボトム保護の意味は小さくありません。
雨風ミックス時の前室の使い勝手
風を伴う小雨を想定して前室を試したところ、
- 風下側に回り込んで座れば、軽い調理はなんとか可能
- 風向きによっては、前室の半分くらいまで雨が吹き込む
という感覚でした。調理をする場合は、
- レインウェア上下を着て短時間で済ませる
- 風が強いときは、無理せず山小屋や風の弱い場所を利用する
といった運用の方が、安全面でも精神的にも楽だと思います。
実際に濡れて困った場面と対策
夜露で前室の地面がしっとり濡れたことで、
- 出入りのたびにザック底が少し濡れる
- 朝の撤収でフライ内外の水滴に気を遣う
といった細かなストレスはありました。ただ、これは多くの3シーズンテントで起こるごく一般的な状況です。
対策としては、
- 前室用の小型グランドシート(薄いビニールやタイベック)を敷く
- 撤収前にマイクロファイバータオルでフライ内外をさっと拭く
といった軽い工夫で、快適度はかなり変わります。ULテント全般に共通しますが、「結露や夜露はゼロにはならない前提で、小さなひと手間でコントロールする」というスタンスが現実的です。
登山で感じた「軽さ」の恩恵と割り切りポイント
北アルプス縦走で感じた860gのインパクト
2泊3日クラスの北アルプス縦走で、テント本体が約860gに収まることは、想像以上に歩きやすさに直結しました。
- 急登や長い下りでザックが軽く感じる
- 荷物が軽いぶん、ペースを維持しやすい
- テント泊を選ぶハードルが下がり、「もう一泊しようかな」と思える
テント重量が1.5kgから1kg前後に変わると、「ザックの中のテントが“かさばる重り”から“軽い荷物の1つ”に変わる」感覚があります。
疲労感・歩行ペースへの影響
1日7〜8時間歩く行程では、終盤の疲れ方が明らかに違いました。普段、自立式で1.5kgクラスのテントを担いでいる方なら、変化はさらに実感しやすいはずです。
ヤール1とUL寄りの寝具セットを組み合わせればザック全体の重量も抑えられるため、
- 膝への負担軽減
- 下山時の集中力維持
- 翌日の行動開始も軽い気持ちでスタートできる
といったメリットにつながります。
軽さの代わりに割り切るべき点(耐久・居住性など)
軽さを得るために、割り切られている部分もあります。
- 生地が薄いので、雑な取り扱いは避けたい
- インナーの広さは最小限で、室内で長時間くつろぐには向かない
- 非自立式のため、設営場所や地面の条件をある程度選ぶ必要がある
「雨の日もテント内でのんびりくつろぐ」「家のような快適さを求める」といったスタイルより、「山を長く・軽く歩くための道具」として割り切れる方に向いたテントです。
また、新しいモデルのため長期使用レビューはまだ多くありません。「何シーズンくらい安心して使い倒せるか」は今後の蓄積次第ですが、現時点では「軽さと機能性のバランスは良好。ただし丁寧に扱う」という前提で付き合うのが無難だと思います。
他テントと比べて見えたヤール1の立ち位置
アライテント・MSRなど定番ソロテントとの比較
アライテントやMSRの自立式ソロと比べると、次のような整理になります。
- 設営の気楽さは自立式に軍配(場所をあまり選ばない)
- 居住空間の余裕も、伝統的な自立式の方が一歩上
- その代わり、重量と価格のバランスはヤール1がかなり有利
とくに「最初の一張り」としてアライやMSRを選び、その後「もっと軽くしたい」と感じている方には、ヤール1はちょうど良い2張り目候補です。1.5kg級から一気に800g台にできるので、歩きやすさという意味でのインパクトは大きいと思います。
価格面でも、Samaya Radical1や海外ハイエンドULテントと比べると現実的で、国内販売・国内サポートの安心感もあります。この「コスパと安心感」の組み合わせが、ヤール1が高評価を得ている理由の一つです。
同クラスの非自立式ULテントとの違い
海外製や中華ULの非自立式テントと比較した場合、ヤール1は次の点で「実用寄り」のULテントという印象です。
- 日本人の体格と日本の山岳環境に合わせたサイズ感
- シリコーンナイロンによる軽さと耐久性のバランス
- 国内ブランドならではの入手性とサポートの安心感
極端に攻めた薄さや、居住スペースをギリギリまで削った設計ではなく、「UL寄りだけど、ちゃんと山岳テント」というバランスに落ち着いています。
Six Moon Designs ルナーソロのような片持ちポール+シングルウォール系と比べると、構造はやや重くなりますが、そのぶん結露や設営難度の面で扱いやすく、UL入門〜中級者がストレスなく使える領域にうまく収まっています。
「非常用テント」か「ガチ縦走用」か
使ってみて感じたのは次の点です。
- 山小屋メイン+非常用として持ち歩くには、ややオーバースペック(重さ・価格ともに)
- むしろ、テント泊縦走のメインテントとして使い倒す方が適している
山小屋泊+保険としての運用も可能ですが、860gのテントを保険にするなら、いっそ普通にテント泊で歩いた方が楽しめると感じるくらいの完成度でした。
どんな登山スタイルの人に向いているか
ヤール1をおすすめできる登山者像
実際に使ってみて「これはハマる」と感じたのは、次のような方です。
- 北アルプスや南アルプスで、2〜3泊の縦走を年に数回行う人
- すでに自立式テントを1張り持っていて、「もっと軽くしたい」と考えている人
- ULに興味はあるが、フロアなしシェルターより「普通のテント」が安心な人
- 春〜秋の3シーズンで、雪を前提としない山行がメインの人
また、バイクパッキングやロングトレイル、カヤックツーリングなど、「とにかく軽く・コンパクトにしたいけれど、しっかりした寝床も確保したい」というスタイルにも相性が良さそうです。
北アルプスで「避けたい」コンディション・季節
ヤール1で北アルプスに入るうえで、避けた方がよいと感じる条件は次のとおりです。
- 冬季や残雪期の雪上テント泊
- 台風接近時など、風速15〜20m/s超が予想されるタイミング
- 強風が常態化している、ど稜線上の吹きさらしサイトしかない場面
これはヤール1に限らずアンダー1kgクラスのUL山岳テント全般に共通する話で、「悪天候・冬季は丈夫で重いテントに任せる」「3シーズンの縦走・テント場泊で性能を発揮させる」という棲み分けが現実的です。
一緒に揃えたい周辺ギア(ペグ・ロープ・フットプリント)
ヤール1を山で安心して使うなら、同時に揃えておきたいのは次の3つです。
- 信頼できるペグセット
- VペグやYペグなど、硬い地面にも効きやすいものを8〜10本程度
- 追加ガイライン
- 純正に加え2〜4本ほど。ショックコードを併用すると風のショックを和らげられます。
- 純正または同等サイズのフットプリント
- ボトム保護と、濡れた地面からの冷え対策としてほぼ必須と考えてよいです。
これらを追加しても総重量は十分軽量域に収まり、安心感とのトレードオフとしては非常にコスパが良いと感じます。とくに、ペグとロープのグレードアップで、ヤール1の「山向き度」は一段上がる印象です。
総合評価:ゼインアーツ「ヤール1」はどんな一張りか
風への評価(5段階中4)
風への強さを、3シーズン山岳テントとして相対的に評価すると、5段階中4点程度という印象です。
| 評価軸 | 内容 |
|---|---|
| プラス要素 |
|
| マイナス要素 |
|
総じて、「非自立式だから風に弱い」という先入観は払拭されましたが、場所とペグ選びで評価が大きく変わるテントだと感じました。適切なペグ・ガイラインと基本的な張り方の知識がある方にとっては、「軽量テントの中では頼りになる一張り」という評価になります。
登山用途での満足度と他テントとの使い分け
登山用途での総合満足度は非常に高く、とくに次のような方には「買って損はない一張り」だと感じました。
- 2〜3泊の縦走を軽快にこなしたい
- テント泊をメインのスタイルにしたい
今後の使い分けイメージとしては、次のようなローテーションがしっくりきます。
- ヤール1:
春〜秋の北アルプス・南アルプス縦走、荷物を軽くしたいテント泊山行のメイン - 既存の自立式テント(アライやMSRなど):
テント場の状況が読めない山域、悪天候が予想されるとき、冬〜残雪期の山行
ヤール1一張りでオールシーズンをすべてこなすというより、3シーズンの「攻める軽量テント」として1張り持っておく位置づけが最もハマるテントだと感じました。
発売直後から各メディアで話題になっているのも納得の、軽さ・価格・使いやすさのバランスに優れた一張りです。
ヤール1は、「非自立式=風に弱い」というイメージだけで敬遠してしまうのはもったいないテントだと感じました。北アルプスの稜線寄りテント場でも、ペグがしっかり効く地面と10m前後の風という条件下なら、クロスフレームとシリコーンナイロンのしなやかな挙動のおかげで、夜も落ち着いて眠れるレベルの安心感がありました。一方で、ガチガチの地面や風向きが頻繁に変わる悪条件では、非自立式ゆえのシビアさも顔を出します。設営場所の選びやすさや、悪天候での「余裕ある居住性」を求めるなら、自立式のほうが気楽でしょう。
それでも、フルセット約1.15kg/本体約860gという軽さがもたらす“歩きやすさ”は、2〜3泊の縦走でじわじわ効いてきます。荷物を軽くしたい3シーズンの北アルプス・南アルプス縦走や、既存の自立式テントからのステップアップには、かなり現実的な一張りです。ペグとガイラインを少し強化し、フットプリントを組み合わせる前提で、「設営条件は少し選ぶが、そのぶん山行全体が軽快になるテント」として考えると、ヤール1の立ち位置がすっと腑に落ちるはずです。